隆兵そば
2022年12月25日

令和五年からの新体制について

体制を変更するに至った経緯について

令和5年の二月から、長年続けて来たコース料理や予約の受付をやめて、ご予約なしの単品での提供に変更いたします。
隆兵そばの店の在り方自体をかなり変える事となります。
ご来店いただいた常連様にコースがなくなり、予約が出来なくなる事をお伝えすると悲しんで下さる方がかなりいらっしゃいました。
出来る限り、お一人お一人に丁寧に説明してご納得いただき、引き続き応援してくださるというあたたかいお言葉もいただき本当に有り難い限りです。

しかし、あらためてなぜ体制を変えるに至ったのかを詳しく説明する必要はあると感じましたので、長くなりますがこちらに書かせていただきます。

この話は隆兵そばが開店した19年ほど前に遡る必要があります。

その当時は、蕎麦専門の店は京都にはまだまだ少なく、蕎麦屋でも必ずうどんがあるというスタイルが一般的でした。
どちらかと言えば「うどん屋にそばもある」が大勢を占めていました。
そんな中うどんは出さず、しかも和食のコース料理のメインディッシュを本格的な手打ち蕎麦にするというスタイルのお店など皆無と言っても良い時代でした。
今でこそ、お蕎麦を通年出す料理屋さんも出て来ていますが、その当時は料理屋さんの蕎麦は新蕎麦の時期か12月に季節ものの一品として仕入れたお蕎麦が出てくるくらいのものでした。

私がやろうとしていた事はほとんど前例がない事でしたので、初めは「そば屋に予約かぁ」と笑われたり「天ぷらそば出前して」という電話があったりしました。
今また新たに予約無しのスタイルに変更という事になり、「えー、予約出来ないの?」と言われるまでになれたのは、ある意味で一つのジャンルを築き上げる事が出来たんだなぁと実感しております。

自分自身が頑なにコーススタイルを貫いたのは裏返すと、本来の江戸蕎麦のスタイルへの憧れも同時にあったからだと思います。

「予約はできず、単品のみ。アイドルタイムは無く通し営業。昼下がりにふらっと立ち寄り、簡単なアテと熱燗をたのみ、最後につるっと蕎麦で〆る。
長居もせず、酩酊もせず、騒ぎもせず、ただただその空気感を味わってさっと店を去る。
コーヒーを飲む感覚だから、お腹を膨らませる目的ではない。」
というかなり粋な文化が東京の老舗蕎麦屋にはあります。

僕は本来の蕎麦屋を江戸時代のスタバと呼んでいますが、まさにその「空気感」への憧れがありました。
と同時に、これは関西には馴染まないという事が直感的に分かりもしました。

では京都でやるべき事は?と考えた時に、時間をかけて器やお軸を選び、花を生け、自分の世界観を練り上げた料理でもてなす。
その中にメインで蕎麦を入れるというスタイルに行きつきました。

そういった経緯で隆兵そばのスタイルが出来、その中でもっと京都、もっと桂に合うスタイルをと追求していき、桂の素晴らしい井戸水を軸にする水の料理を掲げ、敷地内に生簀を作り、川魚と蕎麦という今の形が出来上がりました。

そういった形においては誰にも負けない自信もつきましたし、一つの事を確立出来たという誇りも持てました。
しかしながら同時に、自分が作り上げて来たスタイルに縛られてしまうような感覚も感じ始めました。
それは唯一無二のスタイルにおける諸刃の剣かもしれません。
作り上げて来た形に縛られず、それを壊して、自由に再構築出来るような状態にしたいと考えるようになりました。
例えば3人前だけしか用意出来ない素晴らしい食材があった時に、14席のコースでそれを使うことは出来ませんが、単品なら早いもの勝ちで売り切れにしても良いワケです。
使いたい食材が躊躇なく使える、やりたい料理をやりたいタイミングで出来る、それが形を決めない最大の魅力だと思います。
考えるだけでワクワクします。

一方で、体制を変えるネガティブな側面もほんのごく一部ではありますがあります。
それは、自分の形を追求すればするほど、そこに合わない人も出てきやすくなるという事です。
最近は飲食店はその空気感や味を求める場所以上に、写真を撮る場所になってしまって来た感があります。
そこに行った経験を「発信する為の来店」が増えて来ました。
そばは伸びるのですぐにお召し上がり下さいと伝えても、いつまでも食べずに写真を撮り続ける人も増えました。
料理が出るのを皆さんでカメラを構えながら待ち、撮り続けて肝心の料理は残して帰る人達も出てきました。
とにかく店や料理人に対する最低限のマナーを守れない、または知らない、といった人たちがsnsが拡大するのと正比例して増えていき、同時的にドタキャンや遅刻がかなり増えてしまいました。
もちろん、たまに遅れる事はどなたでもあります。
急にどうしようもない用事が入ることもあります。
その場合にはきちんと店に伝えて謝ることが最低限必要であり、次回からは気をつけるのが店に対する誠実な姿勢だとは思うのですが、そうならない人が残念ながらけっこうな割合で増えてしまいました。
特にコロナになってからです。
みんながイライラして苦しい状況です。
「お金を払ってるのだから」という理由だけで、自分のペースでやりたいようにやりたい気持ちを通したいという思いがあるのかもしれません。
でも、コロナはお客さんだけではないんです。飲食店の人達もみんな大変な思いをしています。
だから、苦しい時こそ人には優しくしたいし、イヤな思いはさせないでいたいと僕は思います。

思い返せば開店した頃は売り上げも少なく、今のように予約で満席が続く事もありませんでした。
泣く泣く一生懸命に打ったそばを大量に廃棄してしまう事もありました。
しかし、一方では毎日お客様との真剣勝負が出来ました。
毎日が刺激的で新しい出会いや発見に溢れていました。
携帯を見ながら食事をする人など皆無でした。

そんな中、20周年が近づいてきたこの2年ほどは今一度自分のやりたい事を見直す日々が続きました。

初めに憧れを抱いていた江戸蕎麦のスタイル、そこに独自の川魚を混ぜ、酒が楽しめる店。
予約は受けないのでどんな方が来店されるかは分からない。まさに一期一会の勝負。
予約がないからもちろん遅刻もドタキャンもない。そんなくだらない事に心が掻き乱される事なく今ここ、この一瞬に勝負していけるスタイル。その時にしか出会えない食材も然り。
料理を楽しみ続ける自分を保つためには、今はこのスタイルで勝負するしかないと感じました。
そして正式に思い切ってスタイルを変えようと決断しました。正直なところ、今まで築き上げて来た形を捨ててしまうのは非常に勇気のいることでした。お客様も離れていくかもしれないと思いました。
町の便利なところにある店ではない為、わざわざお越しいただくのに予約が出来ないのはかなりハードルが上がってしまうという心配もあります。
マイナス面を考え出すと胃に穴がいくつもあいてしまいそうです。

しかしながら、思い切って発表してしまえば不思議なことに毎日非常に楽しい気持ちになりました。開店した当初のように日々キラキラとし始めました。
そのような気持ちで作る料理ならば絶対にさらに美味しくなるはずで、必ず喜んでいただけると思っております。
お客様に喜んでいただく為には、ただただ追求し続けるだけではなく、自分が楽しくなければならないと20年近く経ってようやく気が付いたのですから、今まで何をやっていたのかと思います。
しかし必死に追求し続けて来たこれまでの時間は必ず、これからの時間の肥やしになるという実感があります。

大変勝手な決断で本当に申し訳ありませんが、私は隆兵そばをもっと粋な文化発信の場として成長させ、そしてもっとお客様と一緒に心底楽しめる場にして行きたいと考えております。

再開時期は二月初旬を予定しておりますが、詳しくは随時ホームページやSNS等で、お知らせいたします。
長い文を読んで頂き本当にありがとうございました。
引き続きどうぞ宜しくお願いいたします。

隆兵そば 中村隆兵 九拝

最近の記事

Recentry Posts

カテゴリー

Category

過去の記事

Archives

食材へのこだわり

隆兵そばでは、出来得る限り有機栽培や無農薬、減農薬野菜を使い、
京都、または京都近郊でとれた食材や関西近郊で醸された酒を提供できるように心がけております。

晦日そば

毎年12月31日は予約制にて単品営業を行います。