吉野杉
第11回は、吉野杉(スギ)のお話です。
3月の臨時休業の際に改装工事を行います。
狭い店なのでご不便をおかけしてしまうことが多く、その中でできるだけ居心地の良い空間にしたいという思いを常日頃から抱いておりますが、この度、良いご縁に恵まれて、店内のテーブルとカウンターを新しくすることになりました。
木材関係のお仕事に就いておられる主人の友人島田洋平さんが、「これは絶対に○隆兵そばに合うと思う!」ととても立派な吉野杉の節無一枚板を選んでくださったのです。国内外問わず色々な種の木に触れ、いつも真摯に木をみつめているその方曰く、国産の杉の木には、外国産の他の木にはない独特の温かみや癒しを感じるそうです。
杉は、建築用材や船材をはじめ、桶、酒樽(造り酒屋の軒下に吊るされるスズメバチの巣のような大きい丸い玉、酒林(サカバヤシ)は、杉玉ともいい、杉の葉を集めて作られています。酒樽の用材である樽丸は、かつては吉野の林業の中心でした。)など、幅広い需要があります。
まさに日本を代表する樹木ですが、興味深いのは、木材として一番安価なものも一番高価なものも「杉」だということです。そういえば、御神木の多くが杉であることもその方とのお話の中で改めて気付いたのですが、天に真っ直ぐ伸びていき(スギの名の由来は「直木(スグキ)」だといわれています。)、樹齢何千年にも達する姿に神秘的なものを感じてきたのか、古来から日本人にとって大変身近でなじみの深いものでした。
奈良の吉野は室町時代から植林が始められたといわれており、高級建材として豊臣秀吉が築いた大阪城や伏見城にも使われています。
吉野杉は、色艶、香りがよく、年輪が均一で細かいことが特徴に挙げられます。年輪は、断面を見ると色の薄い所と濃い所が交互に境界線のように区切られていますが、薄い部分は春から夏に成長した所で、濃い部分は夏から秋にかけて成長した所です。年輪の数を数えると樹齢がわかるといいますが、その年輪が細かいということは、成長が遅く大きくなるには相当の時間と手間がかかっているということです。寒く厳しい環境でじっくり育つ木と、暖かい地域で伸び伸び育った木は成長の早さが違うので年輪の幅も違います。
吉野杉は年輪が緻密で、そのため堅くすぐれた強度を持ちます。
○隆兵そばのテーブルになる吉野杉は、数えると100年は超えているそうです。職場での昼食は杉のテーブルでいただくという洋平さんは、「そのテーブルで食べるとやっぱりご飯がとても美味しく感じるし、守られているようで癒される」とお話されていました。
森林浴といいますが、森に入ると清々しい気持ちになり深呼吸をしたくなります。かすかに香る森の香りは木自身が揮発している物質で、緊張している身体をほぐして心身を和らげ気持ちを安定させる働きがあるそうです。それは木を製材してからも効果は変わらないというので、日本人にとって木は昔からほっと落ち着く素材なのでしょう。
○隆兵そばの改装工事にあたり皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。