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2013.01.01

草木染めのお話(前編)

草木染めのお話

第31回は、草木染めのお話(前編)です。

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。昨年、それまで使っていたパソコンが急に故障してしまい、データの復旧も不可能になってしまったことで散歩道の更新が随分おくれてしまいました。大変申し訳ございませんでした。久しぶりの散歩道、今回は前編と後編にわけてお送りします。

草木染めの染色家で織物作家の小枝かすみさんにお話を伺うために、工房のある比叡山の麓まで出かけることになりました。

織物が出来上がる過程には、糸を紡ぐ人、染める人、機にかける人、織り上げる人、縫製する人と、多くの職人さんの手にわたっていきます。私が毎日店で使っている前掛けは小枝さんの作品ですが、小枝さんはこの工程の「染める」から「織り上げる」までおひとりでなさっています。そこにかかる膨大な時間と労力は想像するだけで気が遠くなりそうで、強い憧れを感じました。

その当時の時代背景も影響してアメリカやヨーロッパに憧れていた頃もあったそうですが、ご主人のお仕事の関係でロンドンに長く暮らされたことで、食べ物や温泉などやはり日本の文化が恋しく、海外に行ったことでますます日本好きになられたそうです。私も20歳の夏に、外の世界に触れてみたくてひと月半ほどヨーロッパのユースホステルを巡りましたが、旅先で出会った外国人に「ジャパニーズイズソフィスティケイティッド(洗練された)!!!」と日本の良さを知らされ、日本人なのに日本のことを何も知らない!とショックを受けたことを思い出しました。海外では、日本といえば、他の都市は人によれど京都を知らない人はいない。日本に戻られてから、子供のころから身近にあった京都のお寺巡りなどをされたそうです。そこで、歴史がありずっと変わらない京都の良さ、日本の良さに触れ、「日本人なら着物をもっと身近に着たい」と思われたそうです。

その当時は織りの着物といえば大島紬や結城紬で、それらはとても高価で柄なども昔のものに比べて派手で「着たい」と思えるものはなかったそうです。そんな頃、志村ふくみさんの作品に出会って感銘を受け、「自分が着たい」と思う色や柄や質感の「紬のきもの」を織り始めたそうです。

そうして、上質でカジュアルベーシックな紬を織られるようになった小枝さんが、例えば同窓会やお食事会で洋服の人の中に混じっても浮かない着物、洋服の時でも着物の時でも一緒で同じように都会の景色になじむような着物を、とおっしゃっておられました。私の前掛けも、今は白いシャツに黒いパンツと洋服姿に巻いていますが、着物の前掛けとしても、それはそれは素敵だろうなあと思います。

生活に根差したものが、結局は飽きないものだと教えていただきました。草木染めのやり方というのは、着物が生まれる弥生時代からほとんど変わらないそうです。木綿や麻に比べて染めた後、絹はきれいに色がもつそうです。蚕からうまれる動物性のタンパク質が植物性繊維よりも染料とうまく結びつくからです。

小枝さんは、染料のモトとなる草木もご自身でいただいてこられます。そこで印象的だったのは、「色をいただく」ために集める草木は、剪定の際にでたものや、ちょっと弱っていたり虫食いがあったり、その枝をとってもその木にできるだけ負担がかからないようにとおっしゃっていたことです。自然と自分が、ひとつになっているような方だなあと思いました。

小枝さんが織られた生地は、そんな思いがつまっているせいか、とてもやわらかくてあたたかい、やさしい光を一緒に織り込んでいるようです。(続く)

小枝かすみさんのWebサイト