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隆兵そば
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2015.01.01

晋山式

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第54回は、晋山式のお話です。

新年あけましておめでとうございます。

昨年の11月に、日頃より大変お世話になっている和尚様がいらっしゃる徳林寺という曹洞宗のお寺で晋山式があり、夫婦で出席して参りました。
こちらのお寺の名嘉法琉新命和尚様と奥様の法潤様(以下より、親しみを込めて普段通りの呼び方で法琉さん、法潤さんと書かせていただきます。)には、主人は開店前より大変お世話になっております。

IMG_4484〇隆兵そばの毎月18日の定休日は、福井県小浜の佛国寺へ観音様の法要を聞きに参るために設けておりますが、そのお寺の原田湛玄老師様のお弟子様でいらっしゃいます。
佛国寺は、全国の禅寺でもきちんと行じることの珍しくなった座禅の修行をしっかりとされているお寺です。同じ福井県にある、有名で立派な禅寺からも座禅の指導をお願いされることもあった原田湛玄老師様は、毎月お会いして観音様の前でされているお話を聞くだけで、こころが晴れやかになり、とても落ち着いた気持ちを取り戻せるような老師様です。
私は、嫁いできてこんなにも有難く仏縁をいただきましたが、それ以前に抱いていたお寺の住職さんのイメージは、老師様に出会って見事に覆されました。
職業として「お坊さん」ではなく、一線を超えられたような、本物の方なのだなあと感じました。
そんな老師様のお弟子様でいらっしゃる法琉さんも、言うまでもなく、お会いするだけで人と人とのつながりのあたたかさを思い出させてくれますし、癒されます。

さて、晋山式とは、お寺の住職が決まって正式に就任する時の初めての儀式で、分かりやすく言うと、お寺に新しい住職を迎えるということで結婚式のようにとてもおめでたい式だと法潤さんから聞きました。

私たちは7時すぎに徳林寺に着き、晋山式の始まりを山門で待っていました。
朝の霧がたちこめる幻想的な景色の中、緑・黄・赤・白の彩幡をひるがえし、行列を組み、お供を伴った新命和尚(法琉さん)が到着されました。
本堂にて住職の辞令をいただいた新命和尚さんは、香を捧げてご本尊様に新任のご報告の三拝をし、さらに当山の伽藍をお守りくださる大権修理菩薩様に一山の安泰を祈り、達磨大師さま、当寺の御開山、歴代の住職の方々に就任のご報告とともに信念を申し上げ、国土の隆昌と国民の安泰を念願し、仏道の興隆と当山の吉祥、檀信徒各家の家門繁栄とをお祈りされました。

IMG_4528晋山式に続き、晋山上堂という儀式が行われました。
法琉さんのお作りになった晋山式のしおりに晋山上堂について分かりやすく書かれてありましたので、以下、ご紹介いたします。
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わが曹洞宗においては、この式典が最高の式であり「大和尚」という宗門最高の法階資格を得られ、一ヶ寺の住職として一世一代の晴れの盛典であります。そもそも結制とは、かつてインドにお釈迦さまご存命の頃、雨期になると外に出ての修行もままならず、一所に集まりお釈迦さまの説法を聞いたり問答をしたりする雨安居という90日間の修行期間があり、その期間中大変多くの人が集まりますので、多くの取り決めごと『制』を結んで、共に生活をしたのです。これを結制と言いました。今でも本山など多くの修行僧が集まっているお寺では古式に則り、年二回修行されています。しかしながら現在のような一般のお寺では行じ難く、主に問答を中心とした、住職による上堂の法要と、首座和尚による法戦式を行うようになりました。これから行われる晋山上堂の儀式は、住職が平常はご本尊さまを泰安している高い須弥壇の上に登り、大勢の寺院、檀家の方々の前で謹んで香をたき、国土の隆昌と仏法の興隆を願い、併せて檀信徒各家先祖代々の霊に対して供養し、さらに将来檀信徒各家がますます繁栄されるよう、また当山がいよいよ各位のお力によって護持発展いたしますようこころから祈念致します。次にお釈迦さまをはじめとして、両大本山の御開山様、歴代の住職方に報恩供養の香、また檀信徒各家のご先祖様へのお香をそれぞれたき、最後にご自身のお師匠様に対し報恩感謝の誠を捧げます。そのあと、住職となるため永年研鑽を積み重ねてきた学徳、力量あるいは抱負を高い壇上から堂々と発表し、若い修行僧たちに強く、あるいはやさしく教示して禅の真髄を把握させようと、鋭い問答を取りかわします。了って仏法の教えをまとめ、感謝の言葉を述べ、祖師の言葉を引き、説法の締めくくりをいたします。
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このような流れで晋山上堂の儀式をずっと拝見いたしました。

幾度も繰り返される若い修行僧たちとかわす鋭い問答に、心を打たれ、目頭が熱くなりました。
質問をする修行僧はこの日のためにどんな問いを投げかけるかを考えてこられるけれども、新命和尚様にとってはその時初めて聞く質問ばかりで、それに答えなければならないのです。法琉さんは、須弥壇の上から修行僧たちの問いに、力強く、真摯にお答えになっておられました。
何人かの修行僧たちとともに、お袈裟をまとったまだ小学二年生の小坊主くんが、はっきりと皆に聞こえるような可愛らしく大きな声で「僕は、座禅をするととても足が痛くなります。どうして座禅をしなければならないのですか。」と問いかけておられました。
私も結婚をする前に佛国寺に泊めていただき、本式の座禅を教えていただきました。他の修行僧の方とともに1回40分の座禅を朝に3回、夜にも3回し、初めての経験で痛くて痛くてひと月足がしびれっぱなしだったことを思い出しました。そして、法琉さんが何とお答えになるか気になりました。
「私も何十年もずっと、毎日座禅をしていますが、いまでも足が痛いです。でもね、〇〇君、足はいつも自分を支えてくれています。座禅をして、足が痛くなるけれども、その足は、〇〇君が歩いたり、走ったりするときにも、いつもしっかり支えてくれています。座禅をするということは、〇〇君がお父さんやお母さんに守られ、お日様や宇宙に守られている、すべてのものに守られているという真のことに気付かせてくれます。だから、これからも、足が痛くなるかもしれないけれど、頑張って座禅を続けてください。」というようなことをお話されました。
こどもの純粋な質問と、それにお答えになった法琉さんを見て、どうしてこんなに感動するのだろうと考えたら、やっぱり、「心」がそこにこもっているからだと確信しました。

IMG_4519法琉さんは沖縄の伊是名島出身でいらっしゃいます。
晋山式の締めくくりに、本来はそういったことはされませんが、芸達者な法琉さんの親族の方々が御礼の気持ちを込めて、琉球舞踊と琉球空手の演武をご披露してくださいました。
感謝の気持ちをこのような踊りで表してくださって、それを観てやはりまたこちらも感謝の気持ちでいっぱいになりました。

もしも、この晋山式が形式だけで進行されていたり、そこに意識や気持ちがこもっていなかったりすると、どんなに退屈な式だったかもしれません。
お会いするだけで心がほぐれてホッとするような気持ちにさせていただいているのは、厳しい修行を乗り越えてこられたというだけではなく、法琉さんと法潤さんの、あたたかく、私たちに本当に心から接してくださるお人柄によるものだと思いました。

おもてなしについての講演をする前にも、不安だった私に、お話をしてくださいました。
おもてなしとは、本来、生きとし生けるものすべてが「おもてなしの世界」で成り立っている世の中なんだよ、と教えてくださいました。
人と人、というだけのせまい世界ではなく、太陽の光も、空気も、水も、土も、野菜や食べ物、私たちはそういったあらゆる自然からの「おもてなし」を受けて生きています。
おもてなしを受けるばかりの世の中ではなく、おもてなしを受けて、おもてなしを差し上げて、もてなし合って成り立っている世界なんだと。
私たちがいち人間として目指すべき方向を気付かせてくださり、またお示しになってくださる方に巡り合えたことをとても有難く感じています。

IMG_4510晋山式でもうひとつ、改めて感じたことは「子供は宝」だということでした。
法琉さんのお伴として、村の子供たちも列を組んでお稚児さんとして参加されていました。
2歳くらいから就学前くらいの子たちがお稚児さんの衣装をまとってそこにいるだけで流れる空気もとても明るく可愛らしく、また神聖な感じもしました。問答をかわした小坊主君もですが、こどもはそこにいるだけで不思議な力を周りの空気に与えているように感じられました。
やはりこどもは希望のかたまりです。景気対策より何より、こどもが少なくなっていくことが一番心配されるべき課題なんじゃないかと思いました。

晋山式という、なかなか身近ではない儀式に触れられることができ、とても良い経験をさせていただきました。
まだまだ至らない点ばかりですが、これからも、自分を見つめ、店を見つめ、磨いていきたいと思います。
新年の抱負は、切磋琢磨といったところでしょうか!
それでは、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。